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※仮面について
仮面越しのキスに関する小話とイラスト
キッドとキラーで好きなシチュエーションときたら、真っ先に「仮面にキス」を挙げます。
実際に唇同士が触れ合ったわけではないのに、互いの熱や肌の感触がありありと思い起こされて、心臓が破裂しそうになるシチュエーションがたまらない。ある日無防備に寝ているキラーを見つけ、いたずら心で仮面の口元あるいは額にひっそりとキスして去るキッド。お約束通りキラーは起きているわけですが、至近距離に感じたキッドの体温や、口元に感じたわずかな圧力を思い出して眠れなくなるといい。キッドの方も妙にどぎまぎしていればいい。
そんな思いを以下の小話で表現してみました。
※
珍しいこともあるものだ。
宵の口、水を求めて食堂の扉を開くと、足の生えた毛玉が椅子の上に転がっていた。すぐにそれがこちらに背を向けているキラーだと理解したが、それでもキッドは小さく首をかしげた。
「おい」
平素なら、僅かな床の軋みでもバネ仕掛けのように起き上がる男が、微動だにしない。キッドはドアノブに掛けたままだった左手を降ろし、室内へ一歩踏み出してからそろそろと後ろ手で扉を閉めた。ふとそんな自分に柄ではないものを感じ、仕切り直す意味を込めて大仰にキラーの傍へ歩み寄った。
鋭い踵が床を衝く音は鼓膜に響くだろうに、なおも動きはない。肘掛けにだらしなく置かれた腕が、少々外角に傾いた程度だった。
しばし様子を眺めたのち、本当に寝てやがる、とキッドは確信した。頭部を覆う仮面で寝顔の判断がつかないキラーは、ただ椅子に身を投げ出しているだけともとれる姿だった。しかし、かすかに聞こえる寝息は熟睡している者のそれだ。「キラー」
特に起こす気もなかったが、普段のように名前を呼んでみる。
キラーの方も、どうしても起きる気は無いようだった。何か、永遠に眠り続ける病気にでもかかったのではないかと思うほどだった。
昔そんな御伽話を聞いたことを思い出す。いかにも女子供の好むような、姫と王子とハッピーエンドの三拍子だった。永遠の眠りはキスによって覚まされる、背筋が痒くなる様なロマンチックさである。そんな起こされ方をしたら、キラーはどういう反応をするだろうか。ふと芽生えたいたずら心は、瞬く間に花開いた。
「まあ、実際に口を突つき合わせるわけじゃねェしな」
仮面越しなら、互いにそこまで深刻なダメージもないだろう。
どうせなら確実に起こしたいと思い、顎を持ち上げて口を寄せることにした。頭の位置がずれたら、流石に起きるだろう。
思い立ったらすぐ行動するのがキッドである。背をかがめ、キラーの顎に手を掛ける。そのまま力任せに上を向かせて、口があると思しき箇所に唇を寄せた。硬いが、冷たくはない。何となく体温が通っている気がして、不思議な感触だった。
おもむろに唇を離そうとした時、仮面に空いた穴から呼気が漏れた。反射的に身を起こす。その意外なまでの温かさは、人間の体温に触れたという事実を鮮明に伝えた。キッドは急に気恥ずかしくなった。普段ならば、このような芝居がかった行為など思いつきもしないのだ。キラーは確実に寝ていた。だから、何をしたかなどわかるまいと自分を納得させることに努めた。明日の朝、顔を合わせた時に平静を保つ努力も必要だ。
キッドはよく冷えた水を呷り、痛むほど引き攣れた喉に嚥下した。
本当に珍しく、夢も見ないほどに熟睡していた。だが、それも間近にキッドの気配を感じるまでのことだ。
一体何のつもりだったのだろう。せめて起きている時に同じことをしたのなら、腐れ縁ゆえの悪ふざけで済んだはずだった。
何を勘違いさせようというのだろう。キラーは、寝そべったまま口元に手を運んだ。
キッドは知らないのだ。仮面は、第二の皮膚であることを。
心臓がうるさく鳴り続けている。至近距離なら他人にも聞こえてしまうに違いない。あの時、聞こえはしなかっただろうか。どくどくと脈打つ心臓は、血の通わない仮面にかすかな鼓動を与えた。
ゆっくりと、反芻するように指を押し付ける。柔らかな熱がまざまざと思い起こされ、再び寝入ることはもうできなさそうだった。
というのがキラー片想いバージョンです。ノンケにしてはキッドの行動がちょっと突飛ですね。
勿論キッドがこっそり想いを遂げるつもりでキスするのもアリです。
何かこう、普段は立ち寄った街で女を買ったり略奪したりしていそうなキッドやキラーがうぶなことをしているのもよいものだと思います。なまじずっと一緒にいるだけに、踏み込み過ぎて関係を崩したくないという苦悩が見えたらご飯100杯イケます。