点火
珍しくストレートにキドキラ。ラクガキ帳からサルベージしたラクガキと状況説明みたいな小話。
いつもより若干くっついてるだけ。
夜のキッドは身軽になる。
左腕の代役を担っている金属の義手を外してしまうからだ。義手とはいうが、その機能性が発揮される場面は戦闘に集約されており、生活の上ではほとんど重りの様なものだ。眠りにつく束の間だけ、キッドの左腕には空白という自由が与えられる。
今、ベッドに腰掛けたキラーの膝の上には彼の船長が居座っている。
先程から背中に腕を回してきたり、仮面や胸元を唇でついばむように触れたりと前戯の前戯のような無邪気な遊びが続けられている。
しかしそうしながらじわじわとこちらへ体重をかけてきているのは自明だった。背後でつっかえ棒をしている左腕が辛い。日頃から性急に物事を運びたがるキッドのこういった側面を知ったのは、片腕を失ってからのことだった。
「おっと」
キッドは前触れなく右腕を宙に浮かせた。そのままキラーの懐へ深くもたれこむ。ほとんど全身が密着し、体温も体重もまともに預けられる形となった。それでも左腕は折れなかった。首筋の辺りから残念そうなつぶやきが聞こえてくる。
「お前ほんと力ついたよな」
「わざとだろう、キッド」
「お前こそわざとだろ」キッドは残っている方の腕をキラーの左腕に絡めた。そのまま手前に引っ張って、バランスを崩そうと試みる。流石に力ずくでこられると堪え難い。
「倒れる」
「このまま行儀よくお寝んねできるとでも?」ガキじゃねェんだからよ、と笑いながら首筋に噛みついてくる。
腕ずくで同意をもぎとろうとするのはいかがなものか。こちらが協力しなければそうそう先へは進めないというのに。そう思いつつも、キラーは既に己に火が点いているのを知っている。キッドもそれをわかっている。
こうなってしまっては、寝ない子どもと一緒に遊ぶしかないのだ。
……
寝るときは義手外すのかなあと思って。
キラーも仮面外すんだろうけど、その辺は個人的な嗜好上曖昧にしておきたい。あとついでにラクガキもういっこ。