只今、縦書きでレンダリング中です。フォントなどダウンロードしています...
十年後のキッドとキラー(リクエスト企画)
先日行ったリクエスト企画のイラストができました!
おるごんさんよりリクエスト頂いた「十年後のキッドとキラー」。三十三歳キッドと三十七歳キラーです。キッドは三十三歳ということで手放しで若いとは言いきれないけど若造の範疇なのであんまり落ち着いていません。服装のセンスがアレなのは見逃して頂きたいんですが、十年後どこが一番変化するかといえば義手だと思うんですよね。パワーアップはもちろんのこと外装に凝ってたら楽しい。ペイントしたり模様を彫ったり複雑な機構にしたり。
キッドに隠れてほとんど見えないキラーの全身がこちらです。
二年後の時点でやや髪が短くなっていたので十年後は更に短くしてみました。二年後の場合は大怪我を負った際に髪の毛も持っていかれてしまったんだろうなあと思うんですが、十年後が短いのは願掛けの終了という理由付けをしています。こっそりキッドが海賊王になるまで髪を切らないという願掛けをしていたけど、その目標が消失したためにばっさり切ってしまったみたいな。まあ願掛けといってもそこまで重々しいものじゃなくて髪を切らない言い訳としての要素が強かったんだけど切ったら何となくすっきりしたキラー。
あとアラフォーに差し掛かると髪の健康状態が気になってくるかなあと思いまして。仮面被ってるからハゲてもごまかせるだろうけど、あの毛量だと生え際に相当負担掛かってるはず。
服装についてはシャツ×ベストが好きなので採用しましたが、ややキラーのドレスコードを外してしまった感が否めない。中世か?ちなみに十年後も元気に海賊団を続けている設定で描きました。
十年の間にほぼ間違いなく麦わら一味がワンピースを手に入れるでしょう。すると目的を同じくするキッド海賊団はどうなってしまうのか。そこをまず考えました。
キッドはワンピースそのものが欲しいのか最強の座が欲しいのか、海賊団存続のポイントはそこですよね。
ワンピースを見つけること≒海賊王になること、と考えればワンピースはともかく海賊王になることは諦めないかもしれません。ルフィを倒せば海賊王になれるかといえば違うだろうけど、例えば四皇の一角に納まったからといって満足するタマとも思えません。大海賊時代における成功の頂点はやはり海賊王なはず。
そうすると彼らが航海を続ける理由はワンピースゲット→最強を目指すに自然と軌道修正できる気がします。解散している場合も考えました。考えましたが、考えれば考えるほどバラバラになって何かすることあるのかなと不安になってきます。船員レベルならまあ他の船に乗ったり陸地で強面の仕事をやったり道はあるでしょう。キラーは何となく賞金稼ぎでもしてふらふら生きていられそうな気がしますが、キッドはほんとキャプテンだからこそキッドというかワンピースっていう特大の目標がなかったらどうやって生きていくんだろう。なまじ生命力が強そうなだけに、海賊団なき後そのギラギラに見合う生きる理由って何か見つけられるの?ほかの船長達も結構そういうところある。意外とワポル様的な社長業への転身もあるかもしれないけど。
キッド達がワンピースを手に入れられないのは既定路線ですが、その場合夢を失ってからの人生が長過ぎてちょっと空恐ろしくなってきます。普通に働いたり家庭を持ったりという方向にも行かないだろうし、アウトローの人生に安寧という選択肢はないのだと思い知らされますね。
ただ私は彼らのそういう全く保険のない道を己の意思で選んでいるところが潔くて好きなのです。
願わくば死ぬまで最強を目指して駆け抜けていってほしいものです。
十年後を考えるのが楽しすぎて無駄に語ってしまい申し訳ありませんが、さらに付け合わせの小話もご用意しております。
※
本当は危惧していた。己の船長が小市民の幸福、帰るべき場所、果ては半身さえ振り捨ててまで追い求めた頂きが、他の誰かに踏破される日のことを。
キラーは振り返る。
何しろ用意された椅子はたったひとつで、その一脚を巡る争いに新たな時代の名が冠される程だったのだ。
いくら戦力を増してもきりがなかった。最悪の世代と呼び慣らされたところでこの海の頂点には届く気がしなかった。一度たりとも口にはしなかったが、ひとつなぎの秘宝に近づく手段を練る間も、常に一縷の諦念が染み付いていた。
ただ、彼の船長であるユースタス・”キャプテン”・キッドは諦めや不安の類いから恐ろしく縁遠い男だった。それゆえキラーはキッドの背に無窮の光を見た。運命の日は実にあっさりと訪れた。今でもはっきりと思い出せる。
血の通わない機械の指が、手にした新聞を穿つほど握りしめられた。その新聞を渡したのはキラーだった。いずれ知る事実ならひた隠しにも大仰にしたくもなかった。ただ指先はひどく冷えていた。船員達は息の仕方を忘れたように押し黙り船長の動向を窺っていた。
「麦わらの野郎、やりやがった!」
哄笑だった。キッドは口の端を裂いて笑っていた。それは実に無邪気な笑いで、仲間たちが未だかつて見たことのない種類の表情だった。ひとしきり声を上げ終えると、静寂が訪れた。今度こそ恐ろしい光景が広がるのではないかと思い、みな身を固くした。
「また新しい時代が来るぜ!」
………
「なァキッド」
呼ばれた男は、十年来の右腕に向かって首を捻った。
「あの時おれはな」
言いながら数歩進んで横に並ぶ。どの時だとは問われない。
「お前がヤケを起こすんじゃないかと」
「何年おれの船に乗ってんだよ」往年よりやや角の取れた輪郭にあきれたような笑みが浮かぶ。長年近くにいてもまだ知らない表情があることに気づく。それでも眦は変わらず研ぎ澄まされた刃物を思わせた。
「おれは前しか見ねェ」
し、見えねェ、と付け加えられた。
ひとつなぎの秘宝は通過点であり終着点ではない。昔から再三繰り返していたこととはいえ、流石にすぐさま舵を切り替えるとは予想だにしなかったのだ。つくづく恐ろしい男だとキラーは羨望混じりに思った。
だが、実のところキッドが格好つけたがりなことは知っている。部下の前で悔しさを滲ませたくなかったのだということも。「後ろにお前らがいるからな」
内心を見透かされたような気がしてキラーは苦笑したが、キッドの言わんとする意味を読み誤ったことに気づいて面映げに顎髭へ手をやった。
「そうだな、キャプテン」
※
リクエスト頂きありがとうございました!